良好。
左下にサイン、エディションナンバー。
左下の角に若干のアタリあり。
作品がマットに貼られているため裏は未確認。

版元: Brand X Projects, Inc. (ニューヨーク)

アレックス・カッツ(1927-)はアメリカを代表する現代美術家の一人であり、戦後のポートレイトペインターとして最も影響力のある1人でもある。1950年代から抽象表現主義が台頭するなか、カッツは物語性や具象的な表現を試みる数少ない作家であった。彼の作品は身の回りの人物を中心とする肖像画や風景など日常的なモチーフに溢れ、それらを豊かで美しい色彩と最小限のディテールで平面的に描いている。彼のスタイルはパーセプチュアルリアリズム(知覚的写実主義)と呼ばれることもあり、写真のようなリアルさを追求するのではなく、視覚的印象の「即時性」と「明快さ」が重視されている。また彼の作品には同時代の作品に見られる風刺性や大衆文化への批評性は希薄で、詩的で抒情的な側面が強いことが特徴にあげられる。

カッツにとって版画作品は彼の芸術実践の中核のひとつであり、単なる再生産手段ではなく独立した創造の場として非常に重要な位置を占めている。本作品〈Ulla in Black Hat〉はカッツによる著名な「Black Hat」シリーズの一作であり、女優のウラ・ヴァン・ツェラーがモデルとなっている。背景の鮮やかなイエローと、人物の帽子やサングラスの深い黒が鋭く対比をなしており、カッツの特徴であるフラットで陰影の少ないスタイルが強調されている。本作品は女性、連作性、そして洗練されたクールなムードというカッツの主要なテーマがすべて凝縮された一品となっている。