- CONDITION
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良好。問題なし。
裏の中央部分にサイン、タイトル、制作年と”Paris”の記述。
- DESCRIPTION
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日本画にバックグラウンドを持つ松谷武判 (1937 - ) は、年頃から戦後間もなく開発されたビニール接着剤「ボンド」を空気で膨らませることで生まれる独特のテクスチャーの作品制作を開始する。その後、具体美術協会の吉原治良に師事し、戦後日本の前衛美術運動を牽引する作家らと交流を深める。1966年にフランス政府給費留学生として渡仏、版画 制作を経て、1980年頃からキャンヴァスに黒鉛を混ぜたボンドで生成されたレリーフの上から鉛筆で線を重ねていく作品に取り組み、国内外で高い評価を得る。
本作品《Wave 97-5-16》で松谷が表現する黒は、全ての光を吸収する漆黒とも、エナメルの艶やかな黒とも異なる、見方や光の加減によって質感や色調が変化する有機的なものである。美術史家・辻成史は年に開催された大谷記念美 術館での個展にむけた寄稿文の中で、本作品を同じく「波」を描いたギュスターヴ・クールベと対比させている。クー ルベがオルナンの海をキャンヴァスの枠を越えんばかりに迫り来る構図を用い圧倒的な自然として描いたのに対し、松谷はその流動性の本質を潮の満ち引きというエネルギー運動に見出した。松谷の波の連作は、キャンヴァスを横断する異なる高さの滴りを通して、地球上の生命や気象に影響を及ぼす潮汐の変化を予感させる。