良好。
下中央部にサインあり。

台紙の縁に経年によるヤケあり。

韓国で生まれた郭仁植 (カク・インシク) (1919-1988) は、1937年に日本に渡り、日本美術学校に入学する。1940年に太平洋戦争の懸念から韓国に帰国するが、1949年に再び渡日し移住する。幼少期の韓国での記憶や当時の素材から大きな影響を受けた郭は、自然と人工物の対比に焦点を当て、素材と物質、その本質に対する問いからガラス、真鍮、紙などの物体を用いた先駆的な作品を制作し始める。その活動は、もの派運動に大きな影響を与え、のちに李禹煥 (リ・ウファン) のメンターとしても知られることとなる。祖国の統一と民主化の運動にも積極的に関わり、1961年には、在日本朝鮮人総聯合会と在日本韓国人連合会系列の作家が参加する合同展を企画するなど、民族和解運動に注力。1985年と2019年には、韓国の国立現代美術館で大規模な回顧展が開催された。

静謐さと美しさをもたらす本作品は、1979年に制作されたシリーズの一作である。紙を平面や彫刻ではなく主題として使用し、円形に丁寧に切り取ったこの作品には、左翼・右翼の対立や分裂といった時代の苦悩を「亀裂」として「封じ込める」という郭の意志が反映されている。自らのアイデンティティに基づいた東洋的自然観を現代美術に変換した本作には、悠久の時間が宿り、抒情的な要素が漂う。

ギャラリーたかぎ (名古屋)