非常に良好。問題なし。

福岡市美術館で今春開催の国内初となる大規模個展「ADAPTATION - KYNE」でも注目を集め、日本の現代アート界で根強い人気を誇るアーティスト、KYNE (1988-)。大学在学中は日本画を学び、卒業後からアクリル絵具で人物画を描くようになる。そこから、アクリルと描く対象の形態を輪郭線でくくる日本画の鉤勒 (こうろく) の描法とを組み合わせることで、現在のスタイルが定着。

80年代のアイドルや音楽といった大衆文化を享受しながら少年時代を送ったKYNEは、その後、グラフィティに出会い、学生時代には、日本画を描く傍らマーカーを片手にタギングをするようになる。この複数の文化をクロスオーバーしてきた経験は作風に色濃く反映されており、KYNEは自身が吸収してきた様々な文化の要素を含む〈空気感の風貌〉を〈KYNE girl〉と呼ばれる肖像達を通して表現する。〈誰でもない誰か〉を象った様々な文化のベールを纏った女達は、現代アートの文脈において、見事に大衆の心を掴む。また、イラストレーター、NONCHELEEEとショップ「ON AIR」を運営するなど、アートの垣根を越え、ファッションや音楽の分野とを交差しながら活動している。

本作品《Untitled》は、空とヤシの木とビルボード、そしてビルボードの中の〈KYNE girl〉が印象的な風景画である。ビルボードには、2015年にKYNEが制作した日本人歌手、iriのデビューシングル「会いたいわ/ナイトグルーヴ」のCDジャケットが描かれている。このジャケット制作を契機にKYNEは、継続的にiriへジャケットビジュアルを提供している。コントラストの強い物憂つげな青空と黒い影のようなヤシの木は、陽の光の強い昼下がりのドライブを彷彿とさせ、どこかノスタルジックなムードを示唆する。