- CONDITION
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非常に良好。問題なし。
左下にイニシャルサインと制作年「RB 08」
- DESCRIPTION
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ロバート・ベクトル (1932-2020) は、1960年代のアメリカにおけるフォトリアリズムの先駆者である。奨学金を得てカリフォルニア・カレッジ・オブ・アーツ・アンド・クラフツ (現カリフォルニア・カレッジ・オブ・ジ・アーツ) に入学し、1958年に修士号を取得。初めは自由で抽象寄りなスタイルを用いたベクトルだったが、後に彼独自の写真のような現実味ある構図のシンプルさが人気を博すことになる。サンフランシスコのベイエリアに住んでいたベクトルは、そこで日々繰り返されるごくありふれた日常の微細な瞬間からインスピレーションを得た。これらの切り取られた一瞬は、人生がもたらす複雑さとは対照的であり、サンフランシコ近代美術館のチーフキュレーター、ジャネット・ビショップがコメントしたように「さもなくば記憶の彼方に消えてしまう」瞬間を捉えている。平凡なことを不朽のものにすることで、ベクトルは私たちに実在する自分自身の存在を謳歌するように促す。
《House on Clay Street》は、ベクトルのスタイルと哲学をよく表した模範的な作品のひとつである。カリフォルニア特有の陽光に照らされた何の変哲もない郊外の道路を捉えたある日の光景 ー 翌日の光景とも判別がつかないであろうそのイメージは、恒久的な何かを象徴する構図と相まって、モニュメンタルな印象を醸し出す。車はベクトルの作中に頻繁に登場する象徴的なモチーフで、作家は車を描くことで作品に「クールさ」が加わると考えていた。フォトリアリズムがアメリカでブームとなったのは、アメリカ経済が困難な時期にあった1970年代。戦後の楽観主義は消え失せ、それと共にアメリカン・ドリームも徐々に崩壊へと向かっていった。中流階級の美学に彩られたベクトルが描きだす世界は、多くの人にとってもはや憧れることのできない夢と化し、人々は、幻想となったごくありふれた日差しの光景に経済的に遠のいてしまった平凡な暮らしへの憧れの感情を寄せた。
- PROVENANCE
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Gladstone Gallery (ニューヨーク)