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良好。
左下にサインと制作年。
右上角に複数の剥がれ跡があり。右中央にごく小さな付着物あり。
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ロシア生まれのフランス人画家、ニコラ・ド・スタール (1914-1955) は、20世紀における最もミステリアスな画家の一人である。その波乱に満ちた人生は、しばしば彼の芸術分野における輝かしい功績に影を落としてきた。1917年、ロシア革命勃発により亡命を余儀なくされ、両親ともまもなく死別。孤児となったド・スタールはブリュッセルで育ち、ブリュッセル王立美術アカデミーで装飾とデザインの高等教育を受ける。1930年代には、フランス、モロッコ、アルジェリアへと旅行を重ねた。この時期、ド・スタールは、外人部隊に短期入隊にする一方で色恋沙汰に身を投じる。1940年代に入ると、彼のキャリアに徐々に光が当たり始める。1940年代前半には、批評家から高い評価を得るも、困窮した生活から脱するには至らず、1946年2月には同棲していた恋人のジャニーヌ・ギユーが栄養失調により命を落とす。そんな中、1946年末に開催された展覧会の作品が完売したことで、ド・スタールは一躍成功を手にすることになる。1954年には、ニースとカンヌに挟まれたリゾート地アンチーブへと移り住むも、うつ病と極度の疲労に苦しみ、翌年の1955年、アトリエがあった11階のテラスから身を投じ自らの命を絶つ。その引き金となったものについては、恋人からの拒絶や批評家からの厳しい言葉など諸説あるとされている。そんな起伏に富んだ人生だったが、生涯を通して、創作は絶え間なく続けられ、感情、そして情熱が吹き込まれた紙やキャンヴァス作品が何千点とも生み出された。
ド・スタールはその作風において、抽象画を基調とした独自のスタイルを確立した。木炭による本ドローイングに見てとれるように、見たままを写しとるのではなく、対象の感覚を捉える才能を備えていた。《Figure》の官能的なリズムは、作品に躍動感を与え、濃い木炭によって縁取られた人体のような形の中に潜む隠された奥行きを示唆している。ド・スタールの人生とその作品は、まるで鍵穴から覗き見るかのような、ごく私的で複雑な愛と喪失の物語であり、本作品もまたそれを体現していると言えるだろう。