- CONDITION
-
右下にサイン。
裏右上に日本語のサイン、右下に英語のサイン、制作年。
側面に経年による汚れやシミ、サビが複数あり。
- DESCRIPTION
-
三重県鈴鹿市出身の画家、浅野弥衛 (1914 - 1996) は、職業軍人としての役目を終えた1930年代中頃より絵筆を持つようになり、制作活動を開始する。同時期に津市出身の詩人・野田理一とも親交を深めるようになり、野田の所有していたヨーロッパの画集や雑誌を通して、当時欧米で広がりつつあった新しい芸術運動の存在を知るようになった浅野であったが、生前には自らをアルティザン (職人) であると語ったように、独自の道を歩みながら抽象表現方法を築いていく。浅野の代表的な作風として、1950年代後半より描き始めた乳白色の画面に無数の鋭い線が描かれる絵画が挙げられる。その特徴的な描写は、ローラーとペイントナイフによって伸ばされた半乾きの白絵具の上から鉄筆などで画面を引っ掻くことで作られた。白絵具が乾くと、黒絵具を全面に塗り込みすぐに拭き取り、窪みに残った黒絵具が線として浮き出ることで作品が出来上がる。
本作品《Untitled》は、1968年に制作された画家の代表的な抽象絵画であり、その一見冷徹にも見える白と黒は繊細で確固たる筆跡となり、浅野弥衛の詩情豊かな世界観を描き出している。